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1年前のあたし

 あたしの所属するゼミは、うちの学部有数の人気を誇る広告についてのゼミである。
 4月になると、入ゼミ希望者の2年生に対し、うちのゼミは作文の課題が出される。昨年の課題は、「人生の配分」というテーマだった。

 さて、あたしは何を書こうか。かなり悩んだ。
 同じゼミを受けた男友達は、こんなことを言っていた。
「自分の人生のペース配分書けばいいんだろ?楽勝じゃん!」

 でも、それじゃあ受からない。あたしには確信があった。よほどすばらしい人生プランでもあればいいが、自分の人生について書いたとして、同じく自分の人生について書いただれかの文と比べられて劣っていたら、きっと受からない。
 どうしても入りたい。そのためには、比べられない、かつ、自分の個性を出した作文で勝負するのだ。
  
 そう彼に言った。それから2人で、自分らしさを爆発させた作文を必死に書いた。

 そして、次があたしの書いた作文だ。

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 人生の配分 
   ~甘い、だけじゃない。パフェちっくLIFE~

 苺のザ・サンデー、デビル’Sブラウニーサンデー、かぼちゃプディングパルフェ…これは私がバイトするファミリーレストラン・デニーズの愛すべきパフェたちの名称である。アイスクリームやフルーツを幾重にも重ねたパフェは、多くの人々を魅了する。むろん、私もその一人である。とはいえ、作り手である時は、苺シロップ5g、生クリームバラ状…などという規定に沿うのが面倒で、適当に作ってしまうこともあるのだが。

 そんなパフェは種類も量も様々で、まるで人間のような個性をそれぞれが持っている。ここで、人生をパフェにたとえてみよう。グラスが人生全体とすると、中に詰まったアイスクリームやフルーツは人生の中身、つまり人生における様々な事柄といえよう。例えば、バニラアイスが夢、ミントの葉が仕事、苺が愛…などというように。パフェを味わう人間は何が入っているかで、どれを注文するかを決める。つまり、愛情第一とか仕事とお金にウエイトを置くとか、各々の事柄の分量を配分化するわけである。しかし、自分の希望通りに行くほど、このパフェは甘くはない。作り手の気分次第で、出来上がるパフェには雲泥の差が生じることもある。人生というパフェにおける作り手とは、人間の意志に関わらず人生を左右する試練や困難と置き換えられる。これにより、自分で配分したはずの人生はもろくも崩れ去ったりする。仕事一筋の人間がリストラされたり、学歴が一番と考えている人間が受験に失敗したり。 

 しかし、最終的に人間は死を迎える。つまり、グラスは空になりウエイターにさげられてしまうのだが、それでも「おいしかった」と満足出来ればいいのだ。そう思える絶妙なバランスで盛り付けられたパフェをあなたが口に出来るかは、あなたの選択と運、そして何より、人生を味わうあなたの味覚にかかっている。

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 これを書き始めたあたしを見て、男友達は「マジかよ!?」と苦笑いしていたが、あたしは大真面目だった。

 そして、あたしたちは無事合格した。

 発表があった日。
 男友達は、残念ながら不合格だった別の男友達に、「羨ましいだろぉ?」と言ったり、結構な倍率を勝ち抜いたという達成感をあらわにしていた。
 もちろん、あたしもうれしくて同じゼミに受かった女友達と喜んだ。ただ、男友達と考えは異なる。あたしは、この選考を「だれかを蹴落として勝ち残る」のではなく、「人と違う自分を認められる」ことだと思っていた。だから、落ちたらどうしよう…ではなく、自分をわかってもらいたいが受け入れてもらえるかどうか、が不安だった。だから、みんなで受かればいいじゃん。そう思っていた。あたしにとっては、他者との競争ではなく、自分への挑戦だったのだ。


 春が来て、後輩がゼミに入ってくる。次はどんなやつらが自分との戦いに勝つのか。
 たいへん楽しみである。
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