人気ブログランキング | 話題のタグを見る

サンタにラブソングを

ハロウィンが終わったと思った途端、街はクリスマスムードに占領される。
日本人って本当にお祭り好き過ぎて、同じ日本人として呆れる。
僕はお祭りごとなんて大嫌いだ。
去年の正月。
うるさい街から離れようと、付き合っている彼女にさえ何も言わずに青春18切符で一人旅に出かけ、三が日を過ぎてから「あけおめ!」と電話を入れたところ、彼女は「あけおめじゃないわよー!」とおかんむりだった。
彼女の誕生日。
僕には仕事があったし、結局その日を終えてから彼女に会いに行ったわけだが、今日じゃ意味ないのだと彼女はむくれていた。

ああ、それにしても、クリスマスは特に嫌いだ。
僕は大好きな祖母をクリスマスシーズンに亡くしている。これがひとつの原因だろう。
それから、僕が中学生のころに両親が離婚しているので、家族揃ってクリスマスを祝った記憶もほぼない。友人たちが幸せそうに家族とケーキを囲んでいるころ、僕は普段通りに食事を済ませ、テレビをぼーっと見つめていた。
そういったことが災いしてか、僕は音楽を生業としているがクリスマスだのなんだのを描いた歌を作ったことは一度もない。


数週間ぶりに彼女に会った。
さすがに彼女も僕のマイペースに慣れてきたらしく、そんなに機嫌が悪そうではない。
…と思ったが、どうやら彼女もクリスマス気分に乗っかっているらしい。あー、やだやだ。
街の中は普段より人で賑わっていて、お店に入るのも一苦労。人ごみも好きでない僕にはととてもツライ。あー、やだやだ。
やっと入ったお店では悪趣味なクリスマスの飾りつけがなされていた。本当はもっとセンスのいいお店なのに。あー、やだやだ。
店内には、クリスマスソングが絶えず流れている。あー、やだやだ。
心の中で、僕は嫌気がさしていた。

「…何でそんなこと言うかな。」彼女が言った。
心の声のつもりだったのだが、思わず口にしてしまったらしい。
「だって、クリスマスソングなんて安っぽくて軽くて。こんなの歌じゃないよ。」
「何言ってるのよ。かわいそうだと思わないの?」
「へ、何でかわいそうだと思うのさ?」
「クリスマスソングもサンタクロースもこの時期だけのものなんだよ。」
「そんなの当たり前じゃん。1年中あったらうっとうしくて仕方ないよ。」
「そうだね、そう思われちゃうと思うわ。でも、あなたの歌は違うわよね。だって、時期に関係なく聴いてもらえるじゃない?」
「まぁ、そういう人もいるな。」
「でもね、いくら大ヒットしたマライアのあの曲だって、この時期にしか聴いてもらえないんだよ。他の季節には時期はずれだって見向きもされない。それはサンタクロースも同じなんだよ。この時期しか愛されない歌とサンタクロース。クリスマスぐらい愛してあげなきゃだめなんだよ。」
真剣な顔で言う彼女を見て、不覚にも笑みがこぼれた。
笑う僕を見てやっぱり彼女は怒ったが、それでも笑顔が止まらなかった。


今年のイヴは彼女と一緒にケーキを食べようか。
サンタと彼女に向けたラブソングでも口ずさみながら。
←menu